コラム 日本経済

米価はなぜ高騰?“犯人”は誰か|消えたコメと便乗値上げの真相を解説

2025年、私たちの食卓に欠かせないコメの価格が、わずか1年で約90%も上昇するという異常事態に見舞われています。

「ライスショック」とも呼ばれるこの現象は、単なる天候不順や作付け面積の減少といった需給の問題だけでは説明がつかない複雑な背景を持っているようです。

一体なぜ、これほどの急激な価格高騰が起きたのでしょうか?

本記事では、高騰の様々な原因と、その裏でささやかれる“犯人”の存在、そして多くの人が気にかけている「価格はいつ下がるのか?」という疑問について、多角的に掘り下げて解説していきます。

なぜコメがここまで高騰したのか?

なぜコメがここまで高騰したのか?

昨年比でほぼ2倍という、にわかには信じがたいコメ価格の上昇。

NHKをはじめとする各種メディアでも「米不足」が報じられましたが、スーパーの棚から完全にコメが消えたわけではないのに、なぜこれほど価格が跳ね上がったのか、実感と報道の間にギャップを感じた消費者も少なくないでしょう。

まるで一時期のビットコインを彷彿とさせるような急騰ぶりは、一体どのような要因が絡み合って引き起こされたのでしょうか。

【理由1】パニック買い

まず考えられるのが、消費者の不安心理が生んだパニック買いです。「また買えなくなるかもしれない」という恐怖心が、必要以上の購買行動を加速させました。

SNSなどでは「令和のコメ騒動」といった言葉も飛び交い、一部店舗で実際に棚からコメが消える様子が報じられると、それがさらなる不安を煽り、「今のうちに買っておかなければ」と人々を駆り立てる悪循環に陥りました。

過去のオイルショックや、東日本大震災後の物資不足の記憶も、こうした集団心理に影響を与えた可能性があります。

【理由2】投機的な買い占め

次に指摘されるのが、投機目的での買い占めの動きです。近年、生産者である農家がJA(農業協同組合)を通さずに、独自の販路でコメを販売するケースが増えています。

こうした中、一部の個人や業者が価格高騰を見越してコメを買い占め、メルカリなどのフリマアプリで高値で転売する事例も報告されました。

日本の制度上、年間20トン未満の米穀販売であれば、農林水産省への届け出のみで、登録や許可なく販売が可能です。この制度が、一部の投機的な動きを助長したのではないかという見方もあります。

【理由3】便乗値上げ

しかし、パニック買いや一部の買い占めだけで、市場全体の価格がこれほどまでに高騰するものでしょうか。

ここで浮かび上がるのが、「便乗値上げ」の可能性です。これが、今回の米価高騰の「真相」であり、最も大きな要因だったのではないかという指摘がなされています。

米高騰の「犯人」は?

米高騰の「犯人」は?

では、今回の米価高騰における真の「犯人」は誰なのでしょうか。パニック買いに走った消費者でしょうか、それとも投機的な買い占めを行った一部の業者でしょうか。

もちろん、それらも価格上昇の一因ではありますが、実際には「売り手側の値上げに対する強いモチベーション」こそが、最大の要因だったのかもしれません。

市場から「消えたコメ」は、値上げを実行するための口実として利用された可能性も否定できません。

コメは本当に「消えた」のか?

そもそも、市場から「消えた」とされるコメの量は、専門家の分析によると、国内流通量全体のわずか3%程度に過ぎないという試算もあります。

確かに需給バランスが崩れたことは事実ですが、たったそれだけの供給量の変化が、価格をほぼ倍にまで押し上げる直接的な原因になったとは考えにくい、という疑問の声も上がっています。

個人や業者が農家から直買い?

JAを通さない、いわゆる「縁故米」や、個人・業者が農家から直接買い付ける動きが活発化していることは事実です。

これにより、市場全体の流通量を正確に把握することが難しくなっている側面はあります。

しかし、これが価格高騰の主犯であると断定するには、さらなる検証が必要です。むしろ、こうした流通の変化が、売り手側の価格決定力を強める一因になった可能性は考えられます。

売り手にとっての「絶好の機会」

今回の米価高騰の核心は、売り手側、すなわち農家や卸売業者、小売業者にとって、長年のデフレ経済下で抑えられてきた価格を引き上げる「絶好の機会」が到来したことにあるのかもしれません。

肥料や燃料、資材費、人件費など、生産コストは年々上昇していたにもかかわらず、消費者の低価格志向や同業者間の競争により、コメの価格は長らく据え置かれてきました。

しかし、近年、様々な食品や日用品が次々と値上がりする中で、「コメだけが値上げしない理由」はなくなりました。

売り手側が、この「米不足」ムードに乗じて、これまで溜まっていたコスト上昇分や、適正な利益を価格に転嫁する、いわば「高く売れるタイミング」を逃さなかった、という見方が有力視されています。

米価格は下がるのか?

米価格は下がるのか?

多くの消費者が最も気にかけているのは、「この高騰した米価はいつ下がるのか」という点でしょう。しかし、残念ながら、すぐに以前のような価格水準に戻ることは期待しにくい状況です。

備蓄米放出では解決しない理由

政府は、市場の沈静化を図るため、備蓄米21万トンを市場に放出することを決定しました。

これは一時的な供給不足を緩和する効果はあるでしょう。しかし、これだけで価格がすぐに元に戻ると考えるのは早計です。なぜなら、一度引き上げに成功した価格は、簡単には下がらない傾向があるからです。

売り手側は、今回の値上げによって利益改善を果たした、いわば「成功体験」を得ています。

この体験は、供給量が多少回復したとしても、価格を再び引き下げることへの抵抗感を生む可能性があります。いわゆる「価格の下方硬直性」が働くのです。

価格は元に戻らない可能性も

今回の価格高騰は、単なる一時的な需給逼迫によるものではなく、生産・流通コストの上昇や、長年のデフレからの脱却といった構造的な要因が背景にあります。

そのため、備蓄米の放出や、次期作付けによる供給増があったとしても、高騰前の価格水準に完全に戻る可能性は低いと考えられます。ある程度の高止まり、あるいは新たな価格帯が市場に定着する可能性も十分にあります。

まとめ:米高騰は複合要因が生んだ「構造の変化」

まとめ:米高騰は複合要因が生んだ「構造の変化」

今回の記録的な米価高騰は、「米不足」という報道がきっかけとなったことは間違いありません。

しかし、その本質は、パニック買いや一部の買い占めといった現象に加え、より根深い問題、すなわち「売り手側が、長年抑えられてきたコスト上昇分をようやく価格に転嫁できた」という、市場構造の変化にあると言えるでしょう。

一度形成された価格水準は、需給バランスが改善しても、そう簡単には下がりません。

私たち消費者は、この現実を受け止め、今後は特売時を狙うだけでなく、必要な量をこまめに買い足したり、様々な産地や品種の価格を比較検討したりするなど、より計画的で賢い消費行動を心がけていく必要がありそうです。

-コラム, 日本経済

S