「オマハの賢人」ことウォーレン・バフェット氏が率いる、バークシャー・ハサウェイ。この投資会社のポートフォリオは、世界中の投資家から注目を集めています。
「バフェットは何を買い、何を売ったか?」「彼のポートフォリオから今の相場をどう読み解けるのか?」──個人投資家でも知りたい方は多いでしょう。
この記事では、バークシャー最新の公式資料に基づき、ウォーレン・バフェット氏のポートフォリオを徹底的に分析します。ここから投資に役立つ貴重なヒントが得られるはずです。
※本記事は2024年第4四半期末時点の13F情報を基にしています。
バフェット(バークシャー)最新ポートフォリオの全体像

投資会社バークシャー・ハサウェイのポートフォリオの総額は、約2671億7547万ドル億ドル。(2024年12月31日時点の資産、2025年2月14日に提出された「Form 13F Filing」を参考)
バークシャーのポートフォリオは大きく2種類に分類できます。特定少数の優良企業に資金が集中している「集中投資」と、複数の産業に分散投資する「セクター分散」です。
また株式以外に保有する資産として、現金および現金同等物があり、こちらも3252億ドルを超えています。
- 株式ポートフォリオ総額:2671億7547万ドル
- 現金・現金同等物:3252億ドル以上
上位10銘柄リストと比率
気になるバークシャー・ハサウェイの株式ポートフォリオの内訳は、以下の通りです。
- アップル(AAPL) : 28.1%
- アメリカン・エキスプレス(AXP) : 16.8%
- バンク・オブ・アメリカ(BAC) : 11.2%
- コカコーラ(KO): 9.3%
- シェブロン(CVX): 6.4%
- オキシデンタル・ペトロリアム (OXY): 4.9%
- ムーディーズ(MCO): 4.4%
- クラフト・ハインツ(KHC): 3.7%
- チャブ(CB): 2.8%
- ダビータ(DVA): 2.0%
バークシャー最新ポートフォリオの注目点
バークシャーの最新ポートフォリオで注目すべき点は、ポートフォリオの大部分が上位数銘柄で占められていること、そしてAppleへの集中投資です。
また、金融、IT、エネルギー、生活必需品といった特定のセクターへの傾斜が見られます。直近の四半期で新規に購入された銘柄や、大きく売買された銘柄も重要なポイントとなります。Apple売却については後ほど詳しく分析します。
13F(Form 13F)について
13F(Form 13F)とは、米国で1億ドル以上の株式を保有する機関投資家が、四半期ごとに米証券取引委員会(SEC)に提出する保有銘柄の一覧です。この報告書を通じて、市場参加者は運用会社の投資行動を把握でき、以下のウェブサイトでも公開されています。
SEC(米国証券取引委員会)ページより
ただし、13Fで開示されるのは米国の上場株式のみです。したがって、バークシャー・ハサウェイが保有する以下の資産は13Fには含まれません。
- 非公開会社の株式(例:GEICO、BNSF鉄道など)
- 米国以外の国の株式(例:日本の5大商社株など)
- 債券や現金などのその他の資産
近年バフェット氏が投資している、日本の商社株などの動向も13Fからは読み取れません。
バフェット(バークシャー)ポートフォリオの上位セクター詳細

バークシャーのポートフォリオは、いくつかの特定のセクターに集中しています。それぞれのセクターがバフェットの投資戦略においてどのような役割を果たしているのかを見ていきましょう。
金融セクター
金融セクターは、バークシャーのポートフォリオにおいて大きな比率を占めています。Bank of AmericaやAmerican Expressといった大手金融機関、そして保険会社のChubbなどが代表的です。バフェット氏は長年、銀行や保険といったビジネスモデルを好んできました。
金利が上昇する局面では、銀行や保険会社は金利収入が増加しやすくなる特徴があります。
金融機関の競争優位性(規模の経済やブランド力)に加え、保険事業から得られる「フロート」(保険金支払いまでの間、保険料を運用できる資金)も、バークシャーの投資資金源として重要とされています。
ITセクター:Apple一極集中は継続
バークシャーのポートフォリオにおけるITセクターは、ほぼApple社だけに集中しています。Appleはポートフォリオ全体の半分近くを占める最大の保有銘柄であり、その成功がバークシャーの業績に大きく貢献してきました。
バフェット氏はAppleを「素晴らしい消費者向けビジネス」と高く評価しており、iPhoneのブランド力と顧客ロイヤルティ(愛着心)を「経済的な堀」と評しました。
しかし、一企業への集中は、その企業の業績や株価動向がポートフォリオ全体に与える影響が大きくなるというリスクも伴います。2024年にバークシャーはApple株の一部を売却していますが、依然としてAppleへの集中投資は継続中です。
生活必需品&エネルギー
Coca-ColaやKraft Heinzといった生活必需品セクターの銘柄は、経済状況にかかわらず一定の需要が見込めるディフェンシブ銘柄としてポートフォリオに組み込まれています。不況期でも比較的業績が安定しやすい特徴があります。
一方、ChevronやOccidental Petroleumといったエネルギーセクターへの投資比率も高まっています。これは、足元のエネルギー価格や地政学リスクに加え、バフェット氏が長期的なインフレリスクをヘッジしようとしている”兆し”とも解釈できます。
エネルギー企業は、インフレ局面で製品価格を転嫁しやすい傾向があり、実物資産に近い性質を持つことから、購買力維持に役立つ可能性があります。
バフェット(バークシャー)最近の主な売買動向

直近の四半期(2024年第4四半期)におけるバークシャーの主な売買動向は、バフェット氏の最新の相場観や戦略を読み解く上で重要な情報源となります。
バフェットが最も買った株(2024年第4四半期)
- コンステレーション・ブランズ(STZ)
- ドミノ・ピザ(DPZ)
- Pool Corporation
- Sirius XM Holdings、Verisign
コンステレーション・ブランズ(Constellation Brands Inc., STZ)は、新規取得で約12億4,300万ドル分購入し、バークシャー・ハサウェイのポートフォリオに新たに加わりました。
ドミノ・ピザ(Domino's Pizza Inc., DPZ)は約10億ドル分を追加購入し、保有比率を約87%増やしました。
その他、Pool Corporation(48%増)、Sirius XM Holdings(12%増)、Verisign(4%増)も大きく買い増ししています。
バフェットが最も売った株(2024年第4四半期)
- シティグループ(Citigroup Inc.)
- Nu Holdings
- バンク・オブ・アメリカ(Bank of America Corp.)
- Charter Communication、Liberty Media Corp Formula One
シティグループ(Citigroup Inc.)は、約10億3,000万ドル分を売却し、保有比率を73%減らしました。
Nu Holdingsは、4億1,600万ドル分を売却し、保有比率を53%減らしました。
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America Corp.)は、約29億9,000万ドル分を売却し、保有比率を15%減らしました。
その他、Charter Communication(29%減)、Liberty Media Corp Formula One(12%減)なども大きく売却しています。
項目 | 銘柄名(ティッカー) | 増減額(ドル) | 増減率 |
---|---|---|---|
最も買った株 | Constellation Brands (STZ) | $1,242,976,000 | 新規 |
2番目に買った株 | Domino's Pizza (DPZ) | $999,868,000 | +87% |
最も売った株 | Citigroup (C) | $1,030,475,000 | -73% |
2番目に売った株 | Nu Holdings | $416,267,000 | -53% |
Appleを売った理由
2024年第4四半期にバークシャー・ハサウェイはApple株(AAPL)を約3億9000万株売却しました。これにより、同年6月末時点の保有株数は約4億株となっていますが、依然としてAppleはバークシャー最大の保有銘柄です。
この売却について、バフェット氏は2025年のバークシャー年次株主総会などで以下のような理由を語っています。
- 税率上昇リスクへの先回り
- 割高感と資金余力の確保
- 依然として“トップ・ポジション”を継続
米国では将来的に法人税率が引き上げられる可能性が議論されており、バフェット氏は含み益が大きいApple株の一部を、税率が低い現時点で売却しておくことが得策だと判断したと説明しています。
売却したとはいえ、バフェット氏はAppleを「素晴らしい企業」と評価しており、ポートフォリオの大部分を占めるトップポジションであることに変わりはないことを強調しています。今回の売却はあくまで戦略的な一部調整であり、Appleへの信頼が失われたわけではないと伝えられています。
最新ポートフォリオが示す、バフェットの相場観

最新のポートフォリオ構成や売買動向から、ウォーレン・バフェット氏が現在の市場や経済に対してどのような見方をしているのか、その相場観を読み解くことができます。
巨額キャッシュは「待ち」の証拠
2024年末時点で、バークシャー・ハサウェイの手元資金(現金及び現金同等物)は、約3,000億ドルを超えるとされています。
これは過去最高水準であり、バフェット氏が投資対象を厳選し、安易に資金を投入せず「待ち」の姿勢を取っていることを示しています。
魅力的な価格で買える優れた企業が見つかるまで、じっと機会をうかがっているのでしょう。
集中と分散──バフェット流リスク管理
バフェット氏のポートフォリオは、Appleのような一社に大きく資金を集中させる一方で、金融、エネルギー、生活必需品といった複数の異なるセクターにも分散投資しています。
これは、彼が「分散は無知に対するヘッジだ」としつつも、本当に理解できる少数の優良企業に集中する投資スタイルを採っていることの表れです。
一見矛盾するようですが、特定の優良企業への「集中」は成長を取り込むためであり、異なるセクターへの「分散」は予期せぬ市況の変化や固有のリスクからポートフォリオを守るため。そのような「バフェット流のリスク管理法」がここに見て取れます。
エネルギー比率拡大は“長期インフレ”ヘッジのシグナル
近年、バークシャーがエネルギーセクター、特にOccidental Petroleumへの投資比率を高めていることは注目すべき変化です。これは単に短期的な原油価格の変動を狙ったものではなく、バフェット氏が長期的なインフレリスクを懸念し、それに備えようとしているシグナルとみることができます。
エネルギー企業は、インフレ下で製品価格を比較的容易に引き上げることができ、保有する石油やガスといった資源自体がインフレヘッジ資産としての性質を持ちます。この動きは、バフェット氏が長期的に物価が上昇する環境が続くと見ていることを示唆しているのかもしれません。
個人投資家が“バフェット・ポートフォリオ”から学べること

ウォーレン・バフェット氏のポートフォリオや投資哲学は、個人投資家にとっても多くの学びがあります。彼の戦略をそのまま真似ることは難しくても、そのエッセンスを自身の投資に取り入れることは可能です。
理解できるものだけに集中
バフェット氏は常に「理解できるものに投資する」ことの重要性を説いています。最新のポートフォリオも、彼が長年理解し、そのビジネスモデルや競争優位性を評価している企業で構成されています。
流行の先端技術や複雑な金融商品に安易に手を出すのではなく、自分がその企業のビジネスを理解し、将来性を判断できるかどうかを基準に投資先を選ぶことの重要性を教えてくれます。
「経済的な堀」を持つ優良企業に長期投資
バフェット氏の投資哲学の根幹にあるのが、「経済的な堀」(Economic Moat)を持つ企業への長期投資です。競合他社が容易に参入・模倣できない、企業独自の競争優位性(ブランド力、技術力、ネットワーク効果、規模の経済など)を指します。
バークシャーのポートフォリオ上位銘柄(Apple、Coca-Cola、American Expressなど)は、いずれも強固な経済的な堀を持つ企業です。短期的な株価変動に惑わされず、長期的に企業の成長とその「堀」の維持・強化に賭ける姿勢は、個人投資家が見習うべき点です。
現金ポジションを“オプション”として活用
前述した巨額のキャッシュポジションは、単に寝かせている無駄な資金ではありません。バフェット氏にとって現金ポジションは、市場が混乱し、優良資産が割安になる機会が訪れた際に、すぐに動けるようにするための「オプション」です。
個人投資家も、自身のポートフォリオの一部に現金や換金性の高い資産を置いておくことで、予期せぬ下落局面で「良い買い場」が訪れた際に、慌てずに対応したり、新たな投資機会を捉えたりすることができます。
常にフルインベストメントである必要はない、という柔軟な姿勢が重要です。
まとめ
2024年末時点のバークシャー・ハサウェイの最新ポートフォリオは、依然としてAppleへの高い集中度を保ちつつも、金融やエネルギーセクターへの傾斜、そして歴史的な高水準にあるキャッシュポジションが際立つ内容でした。
これらの動きは、バフェット氏が現在の市場環境を「待ち」と見ていること示唆しています。将来的な税率上昇や長期インフレリスクにも備えながら、同時に魅力的な投資機会が訪れるのを虎視眈々と待っていると思われます。
バフェット氏のポートフォリオや投資哲学から、私たちは「理解できるものに投資すること」「経済的な堀を持つ優良企業に長期投資すること」、そして「現金ポジションを機会を捉えるためのオプションとして活用すること」といった重要な学びを得ることができます。
これらの普遍的な教訓を自身の投資に取り入れることで、より堅実で成功確率の高い資産運用を目指すことができるでしょう。