ドル円が120円台に下落する可能性と日本経済への影響を示すアイキャッチバナー

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ドル円は「120円台」へ?背景と日本経済へのリアルな影響とは

現在のドル円相場は、しばしば150円近辺で推移しており、私たちの生活や企業の業績に大きな影響を与えています。このような状況下で、「もし1ドル=120円まで円高・ドル安が進んだらどうなるのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。一部の市場関係者からは、将来的にドル円が120円台まで下落する可能性を指摘する声も聞かれます。しかし、なぜそのような予測が出ているのでしょうか?そして、もし本当に120円の時代が再び訪れたら、日本経済や私たちの暮らしにはどのようなリアルな影響が及ぶのでしょうか?

この記事では、ドル円が120円まで下がると予想される背景にある要因を深掘りし、特に注目されるトランプ政権の可能性が為替政策に与えうる影響についても解説します。さらに、円高が日本経済の様々な側面に及ぼす影響を具体的に検証し、過去の円高局面との比較を通じてその特殊性を探ります。最後に、今後のドル円相場を占う上での注目ポイントと、私たち個人が為替変動リスクにどのように備えるべきかについて考察します。

なぜドル円は120円まで下がると予想されるのか?

現在のドル円相場は、日米の金融政策や経済状況の違いを強く反映しています。しかし、これらの要因に変化の兆しが見られることが、将来的な円高・ドル安を予測する根拠となっています。

日米金融政策の方向性の違い(日銀の金融政策正常化、FRBの利下げ観測)

為替レートの変動に最も大きな影響を与える要因の一つが、各国の中央銀行の金融政策です。これまでの円安は、日本の日本銀行が大規模な金融緩和を続ける一方、米国の連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために急速な利上げを進めたことで、日米間の金利差が大きく拡大したことが主因でした。

しかし、状況は変わりつつあります。日銀は2024年春にマイナス金利政策を解除するなど、長らく続いた異次元緩和からの正常化に向けて一歩を踏み出しました。今後、追加の利上げや量的引き締め観測が浮上すれば、日本国内の金利が上昇し、円を買う動きにつながる可能性があります。一方、FRBはインフレがある程度落ち着きを見せる中で、景気への配慮や金融システムの安定を理由に、いずれ利下げに転じるとの見方が強まっています。FRBが利下げを開始すれば、米国の金利が低下し、日米間の金利差は縮小に向かいます。この金利差縮小観測が、ドルを売って円を買う動きを加速させ、円高・ドル安をもたらす要因となるのです。

日米の経済成長率やインフレ率の差

国の経済状況も為替レートに影響を与えます。一般的に、経済成長率が高く、物価上昇もある程度見込まれる国の通貨は買われやすくなります。これまでは米国経済が比較的堅調で、インフレ率も高かったためドルが買われやすい環境でした。

しかし、足元では米国経済に減速の兆しが見られ、インフレ率もピークアウトした感があります。対照的に、日本経済は緩やかながら回復傾向にあり、デフレ脱却への期待から物価上昇の動きも出てきています。日米間の経済成長率やインフレ率の差が縮小、あるいは逆転するような状況になれば、円が相対的に買われやすくなり、ドル円の下落圧力となる可能性があります。

経常収支の変化と円需給

国の経常収支も為替レートに影響を与えます。経常収支が黒字の国は、海外から資金が流入しやすく、自国通貨が買われやすい傾向があります。日本の経常収支は、貿易収支の赤字が続いていた時期もありましたが、サービス収支の黒字拡大などにより、再び黒字基調で推移しています。

また、海外からの日本への投資(直接投資や証券投資)が増加すれば、円の需要が高まり円高要因となります。反対に、日本からの海外への投資が増加すればドル需要が高まり円安要因となります。今後の日本の国際的な資金の流れ(円の需給)がどのように変化していくかも、ドル円相場を左右する重要な要素となります。

ドル安政策の背景にあるトランプ政権の思惑

2024年の米国大統領選挙の結果次第では、ドナルド・トランプ氏が再び大統領に就任する可能性があります。トランプ氏が過去の政権で強いドルに対する批判を繰り返してきたことから、もし彼が再選されれば、為替政策がドル円相場に大きな影響を与えるのではないかという懸念があります。

「強いドル」への批判と輸出促進への意欲

トランプ氏は大統領在任中、「強いドル」は米国の輸出業者や製造業にとって不利であり、他国が為替を操作して自国通貨を安く誘導していると繰り返し批判しました。彼の「アメリカ・ファースト」の考えに基づき、米国の競争力を高め、国内の雇用を増やすためにはドル安が必要だという考えを持っていました。再選された場合も、こうした考えに基づき、ドル安を志向する政策を推進する可能性があります。

貿易赤字削減に向けた為替圧力の可能性

トランプ氏は、特に中国や日本などとの巨額な貿易赤字を問題視していました。貿易不均衡の是正のためには、関税引き上げだけでなく、為替レートを自国に有利な水準に誘導することも有効な手段だと考えている節があります。もし再選されれば、貿易交渉と並行して、為替政策に関しても圧力をかけてくる可能性が指摘されています。「為替操作国」の認定や、二国間での為替協議を通じた介入示唆など、過去に用いられた手法が再び使われるかもしれません。

過去の政権における為替政策との比較

米国が為替レートに強い関心を示したのは、トランプ政権が初めてではありません。例えば、1985年のプラザ合意は、当時のレーガン政権下で日独仏英の5ヶ国が協調してドル高を是正することに合意したものです。しかし、トランプ氏のアプローチは、協調よりも二国間の圧力や一方的な措置を辞さないという点で、過去の政権とは異なる可能性があります。もし再選され、再び為替に介入するような姿勢を強めれば、それは為替市場にとって非常に大きな不確実性要因となります。

ドル円120円時代の影響とは?

もしドル円が現在の水準から大きく円高に振れ、120円台まで下落した場合、日本経済の様々な側面に影響が及びます。その影響はプラス面とマイナス面の両方があります。

輸出企業(トヨタ・ソニー等)への打撃

円高が最も直接的に打撃を与えるのが、自動車メーカーのトヨタや電機メーカーのソニーといった輸出を主力とする企業です。海外で製品を販売して得た外貨を円に換算する際に、円高が進んでいると受け取れる円の金額が目減りしてしまいます。これは輸出企業の収益を悪化させる要因となります。また、海外市場での価格競争力を維持するために、現地価格の引き下げを余儀なくされる可能性もあり、これも収益を圧迫します。企業によっては、海外生産比率を高めるなどの対策を講じるでしょうが、急激な為替変動への対応は難しく、業績の下方修正につながるリスクが高まります。

輸入物価・エネルギー価格への効果

円高は、輸入品の価格を下げる効果があります。原油や天然ガスなどのエネルギー資源、小麦やトウモロコシといった食料品など、日本が輸入に大きく依存している品目の価格が円高によって下落すれば、企業の生産コストの削減や、私たちの家計の負担軽減につながります。ガソリン価格や食料品価格の安定は、インフレ圧力を抑える効果も期待できます。

金融市場(株・債券・FX)への影響

為替変動は金融市場にも大きな影響を与えます。株式市場では、輸出関連企業の株価が円高によって下落する一方、輸入品を安く仕入れられる内需関連企業や電力・ガスなどの株価は上昇する可能性があります。市場全体としては、企業業績への不透明感から株価が調整する場面も考えられます。債券市場では、円高は日本の金利上昇観測と結びつきやすく、長期金利が上昇する要因となる可能性があります。FX市場では、ドル円の下落トレンドに乗じた取引戦略が主流になるなど、市場参加者の行動も変化するでしょう。

過去の円高局面と比較する(プラザ合意・アベノミクス前)

ドル円が大きく変動した局面は過去にもあり、特に記憶に残るのが1980年代後半のプラザ合意後の円高と、2011年から2012年にかけての超円高局面です。今回の120円予測をこれらの局面と比較することで、その特殊性や示唆するところが見えてきます。

プラザ合意時の経済・社会状況と政策対応

1985年のプラザ合意は、当時の米国の巨額な貿易赤字(特に日本に対するもの)を背景に、ドル高を是正するための協調介入でした。合意後、ドル円は240円台からわずか2年足らずで120円台へと急騰(円高ドル安)しました。この急激な円高は、輸出企業に大きな打撃を与えましたが、同時に輸入物価の下落を通じて企業コストを削減し、国内消費を刺激する効果もありました。日本政府と日銀は、円高不況を回避するために内需拡大策や金融緩和を推進し、これが後にバブル景気とその崩壊へと繋がっていきました。

アベノミクス前の超円高局面とその克服過程

2011年から2012年にかけては、リーマンショック後の世界経済の混乱、東日本大震災の影響、欧州債務危機などを背景に、安全資産としての円が買われ、一時75円台という戦後最高値まで円高が進みました。この超円高は、多くの輸出企業にとって極めて厳しい状況をもたらし、国内産業の空洞化も懸念されました。この局面を克服するために、2012年末に発足した安倍政権は、「アベノミクス」として大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略の「三本の矢」を打ち出し、これにより急速な円安・株高が進行しました。

今回の予測局面との共通点と相違点

今回のドル円120円予測の背景には、日米金融政策の方向性の違いという共通点が見られますが、過去の局面とは異なる点も多くあります。プラザ合意時は、米国からの強い圧力とG5による協調体制が特徴でしたが、今回は米国の政策当局だけでなく、日本の金融政策の正常化自体が円高要因となり得ます。アベノミクス前の超円高は、有事の円買いという側面が強かったですが、今回の予測はよりマクロ経済的な要因(金融政策や経済状況の違い)に基づいています。また、日本経済の構造も変化しており、輸出依存度は低下し、海外生産比率は高まっています。これらの違いを踏まえ、もし円高が進んだ場合の影響の表れ方も過去とは異なる可能性があります。

今後のドル円の注目ポイントは?

ドル円相場は様々な要因によって変動するため、120円台への下落が確実に起こるとは限りません。今後のドル円相場を占う上で、特に以下の点に注目する必要があります。

日米中央銀行の金融政策会合

日本銀行とFRBの金融政策決定会合で示される金融政策のスタンスは、ドル円相場に最も直接的な影響を与えます。日銀が金融政策の正常化をどのようなペースで進めるのか、追加利上げはあるのか。FRBがいつ、どの程度のペースで利下げを開始するのか。それぞれの会合後の声明文や議長会見での発言から、今後の金融政策の方向性に関するヒントを探ることが重要です。

米国大統領選挙と通商政策の動向

2024年の米国大統領選挙の結果は、今後の米国の経済・通商・為替政策の方向性を決定づける可能性があります。特に、トランプ氏が再選された場合の対日為替政策への懸念は市場参加者の間で根強くあります。選挙戦の行方や、候補者の為替に関する発言には細心の注意が必要です。

主要経済指標(CPI、雇用統計など)の発表結果

日米の経済状況を示す主要な経済指標の発表結果も重要です。米国の消費者物価指数(CPI)や雇用統計は、FRBの金融政策の判断に大きく影響するため、これらの結果が市場予想と大きく乖離した場合、為替相場が大きく動く可能性があります。日本のCPIやGDPといった指標も、日銀の金融政策や日本経済の先行きを示すものとして注目されます。

まとめ:ドル円予測と私たちの備え

ドル円が120円台まで下落するという予測は、足元の相場水準から見れば大きな変化であり、その実現には様々な要因が複雑に絡み合います。日米の金融政策の方向性の違い、経済状況の変化、そして米国大統領選挙の結果によっては為替政策が大きく転換する可能性などが、この予測の背景にあります。

もし実際にドル円が120円台まで円高が進めば、輸出企業にとっては厳しい状況となりますが、輸入物価の安定や家計負担の軽減といった恩恵もあります。過去の円高局面と比較すると、今回の予測はマクロ経済的な要因が強く、日本経済の構造変化も踏まえた影響の分析が必要です。

今後のドル円相場は、日米の金融政策、米国大統領選挙、そして主要な経済指標の発表など、様々な要因によって変動する可能性があります。為替相場は常に不確実性を伴うため、個人や企業は、将来的な為替変動リスクに対して備えをしておくことが重要です。例えば、外貨建て資産を保有している場合は円高による資産価値の目減りに注意が必要ですし、輸出入を伴う事業を行っている企業は為替ヘッジなどのリスク管理を検討する必要があります。

為替市場に関する最新の情報を常に収集し、自身の状況に合わせて柔軟に対応していくことが、変動する時代を乗り切る鍵となるでしょう。

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