近年、私たちの身の回りではモノの値段が上がり、かつてないスピードで金利が上昇するなど、経済環境は大きく変化しています。
これは、私たちの資産運用にも見直しを迫るものです。特に、これまで「堅実」とされてきた投資手法が、必ずしも現状に即しているとは言えない場面も出てきました。
2025年、そしてその先を見据えた「堅実な投資」とは一体どのようなものなのでしょうか。本記事では、変わりゆく時代の中で、変わらない投資の原則と、新しい環境に適応するための資産形成術について掘り下げていきます。
今こそ“堅実な投資”が見直されている
なぜ今、「堅実な投資」が改めて注目されているのでしょうか。その背景には、世界経済の不確実性の高まりがあります。インフレの進行、主要国における金融引き締めの継続、地政学的なリスクの上昇など、市場を取り巻く環境は常に変動しており、予測が困難な時代です。
このような状況下では、短期的な大きなリターンを狙うよりも、リスクを抑えながら、時間をかけて着実に資産を形成していくことの重要性が増しています。
感情に流されず、冷静に、計画的に投資を進める「堅実なアプローチ」こそが、不安定な時代を乗り越えるための羅針盤となり得るのです。
堅実な投資とは

従来の「堅実な投資ポートフォリオ」
そもそも、これまでの投資の世界で「堅実な投資」とは、一般的に「長期」「分散」「積立」といった原則に基づいた運用を指しました。特定の資産に集中せず、時間や地域、資産の種類を分散することでリスクを低減し、複利の効果を活かして長期的に資産を成長させる考え方です。
60/40ポートフォリオについて
その代表例が、「60/40ポートフォリオ」と呼ばれるものです。これは、伝統的な資産である株式に60%、債券に40%の割合で分散投資を行うシンプルなポートフォリオです。歴史的には、株式と債券は異なる値動きをする傾向があり、特に株式が下落する局面で債券が値上がりすることで、ポートフォリオ全体の値動きを安定させる効果が期待できました。このため、多くの機関投資家や個人投資家が、堅実な運用の基礎として採用してきました。
これから通用しなくなる部分
しかし、近年この伝統的な「堅実さ」の前提が揺らいでいます。特に顕著なのが、インフレと金利上昇の影響です。
過去の低金利時代には、債券は比較的安定した利回りを提供し、株価下落時のクッション材としての役割を担っていました。しかし、金利が上昇すると、すでに発行されている低金利の債券価格は下落します。さらに、インフレが進行すると、債券が生み出す固定の利息収入は実質的に目減りしてしまいます。
加えて、インフレ抑制のために金融引き締め(利上げ)が行われる局面では、企業業績の悪化懸念から株価も下落しやすくなります。このように、インフレと金利上昇が同時に進行すると、従来の「株安なら債券高」という相関関係が崩れ、「株も債券も両方下がる」という現象(株債同時安)が起こりやすくなります。これは、60/40ポートフォリオのように株と債券の分散に大きく依存したポートフォリオにとっては、有効性が低下する可能性があることを意味します。
2025年版・堅実投資の条件

それでは、インフレと高金利が継続する可能性のある2025年以降、どのような投資が「堅実」と言えるのでしょうか。時代の変化に対応するための条件を見ていきます。
伝統資産+α:ポートフォリオの多様化戦略
現代の堅実投資では、株式と債券という伝統的な資産だけでなく、さらに幅広い資産クラスへの分散が鍵となります。
不動産(REITを含む)、コモディティ(金や原油など)、インフラ関連資産(再生可能エネルギー設備、交通インフラなど)、さらにはプライベートエクイティやヘッジファンドといったオルタナティブ資産なども、個人のリスク許容度や流動性のニーズに応じてポートフォリオに加える検討価値があります。
これらの資産は、株式や債券とは異なる値動きをする可能性があり、ポートフォリオ全体の安定性向上に寄与し得ます。
インフレ・高金利下で有効な資産とは
インフレ環境下では、物価上昇に合わせて価値が変動する資産が有効な場合があります。
例えば、物価連動国債は元本が物価上昇率に連動するため、インフレによる資産価値の目減りを補填する効果が期待できます。
また、家賃収入や不動産価値がインフレと共に上昇しやすい不動産やREIT、エネルギーや資源といったコモディティもインフレヘッジの手段として考えられます。
高金利下では、金利上昇の恩恵を受けやすい変動金利型のローンや、比較的高い利回りが期待できる質の高い債券なども選択肢に入ってきます。ただし、これらの資産にもそれぞれ固有のリスクがあるため、特性を理解した上での組み入れが重要です。
株・債券・その他の理想的なバランス
「2025年版の理想的なバランス」に、万人にとっての絶対的な正解はありません。個人の年齢、資産状況、収入、投資経験、そして最も重要な「リスク許容度」によって、最適なバランスは異なります。
しかし、考え方のヒントはあります。現在の環境を踏まえれば、従来の60/40といった固定的な比率にこだわりすぎず、インフレや金利変動への耐性を持つ資産を意識的に加えることが考えられます。
例えば、伝統的な株式や債券の割合を見直しつつ、不動産やコモディティ、インフラ関連資産などを一部組み込むことで、ポートフォリオ全体のレジリエンス(耐久力)を高める方向性が考えられます。
重要なのは、自身の目標とリスク許容度に基づき、複数の資産クラスを組み合わせることで、特定の市場環境に過度に左右されない柔軟なポートフォリオを構築することです。
成功する人が実践している“投資行動”の共通点
どのような市場環境であっても、堅実な投資で成功を収める人には共通する「投資行動」があります。それは、単にどの資産に投資するかという「What」だけでなく、どのように投資を実行し、管理するかという「How」に関わる部分です。
自動化と継続:積立・リバランスの仕組み化
成功する投資家は、感情に流されず、淡々と計画を実行するための「仕組み」を持っています。
その代表が、自動積立とリバランスの仕組み化です。毎月決まった日に一定額を自動的に買い付ける積立投資は、価格が高い時は少なく、安い時には多く買うことになり、長期的な買付単価を安定させる効果が期待できます(ドルコスト平均法)。
また、定期的にポートフォリオの資産配分を当初の目標に戻すリバランスを自動化またはルーチン化することで、リスク水準を維持し、市場の歪みをリターンに変える機会を得ることができます。
これらの仕組みは、市場の短期的なノイズに感情が揺さぶられるのを防ぎ、規律ある投資を継続するための強力なツールです。
情報に流されない“自分軸”の構築
現代は情報過多の時代です。様々なニュースやアナリストの予測、SNSでの意見などが飛び交いますが、それら全てに反応していては、一貫した投資を行うことは困難です。
成功する堅実な投資家は、自身の投資目標、リスク許容度、そして練り上げた資産配分戦略という「自分軸」をしっかり持っています。
短期的な市場の動きやセンセーショナルな情報に一喜一憂せず、長期的な視点を保ちながら、必要に応じて冷静にポートフォリオを見直す。この、情報に振り回されない強いメンタルと「自分軸」を持つことが、不確実な時代に堅実なリターンを得るための重要な要素となります。
まとめ:派手じゃないけど、ちゃんと増える投資へ

2025年を迎えるにあたり、「堅実な投資」の定義は、インフレや高金利といった変化する経済環境に適応するために進化しています。従来の株式と債券中心のポートフォリオだけでなく、多様な資産クラスを視野に入れ、インフレ耐性や金利変動への対応力を高める視点が重要になります。
しかし、どんなに環境が変わっても、「長期・分散・積立」といった投資の普遍的な原則がその根幹にあることに変わりはありません。そして、これらの原則に基づいた投資を、感情に流されず、規律を持って継続するための「仕組み化」と「自分軸」を持つことが、成功への鍵を握ります。
「堅実な投資」は、一夜にして億万長者になるような派手な手法ではありません。しかし、適切に見直し、着実に実践することで、変化の時代においても資産を「ちゃんと増やす」ための、最も確実で再現性の高い道と言えるでしょう。自身の資産形成の目標と向き合い、新しい時代の堅実な投資について考えるきっかけとなれば幸いです。