「またビットコインに手を出すのか?」――2018年に巨額の損失を出したと報じられたことを覚えている人なら、そう驚くかもしれません。
個人の投資において、「130億円もの損失」という、文字通りケタ違いの金額を経験したとされるソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。その彼が、今度はソフトバンクグループとして、再びビットコイン投資の世界へ足を踏み入れようとしているとの動きが報じられています(
参考:ソフトバンク、再びビットコインの購入に動く──2018年の1億3000万ドルの損失以来(CoinDesk Japan)
なぜ過去の大きな失敗にも関わらず、そしてどのようにして、孫氏とソフトバンクは再びビットコインへ目を向けたのでしょうか?
本記事では、この注目の「再挑戦」について深掘りし、そこから私たちが何を学べるのかを解説します。
本記事で分かること:
- 孫正義氏がビットコインでなぜ巨額損失を出したのか、その背景にある市場の動き
- 過去の失敗を踏まえ、今あえてソフトバンクグループとして投資に再挑戦する理由
- 今回のビットコイン投資戦略は過去とどう違う?具体的な3つのポイント
- 孫氏やソフトバンクの事例から、私たち個人投資家が学ぶべき教訓
そもそもビットコインって何?簡単におさらい

ビットコインは、特定の国家や中央銀行に管理されない、インターネット上でP2P(個人間)で直接やり取りできるデジタル通貨です。ブロックチェーンという分散型の技術によって取引記録が管理されており、これにより改ざんが難しく、信頼性が担保されています。
その供給量には上限(約2,100万BTC)が定められていることから、「デジタルゴールド」として金のような価値の保存手段になる可能性も指摘され、近年注目を集めています。しかし、歴史が浅く、法規制や技術的な課題も残されており、その価格は非常に大きな変動を伴うことが最大の特徴です。
孫正義氏、「130億円の教訓」はなぜ生まれたのか?

孫氏が過去にビットコインで巨額損失を出したとされるのは、まさにこの「価格変動」が背景にあります。
熱狂の2017年、暴落の2018年
孫氏の投資が報じられたのは、ビットコイン市場が最も熱狂していた時期の一つ、2017年末から2018年初頭にかけてです。この時期、ビットコイン価格は投機的な資金流入などにより、驚異的なスピードで高騰しました。
孫氏はこの高騰のピークに近い時期にビットコインを購入し、その後の2018年の大暴落の中で売却せざるを得なかったとされています。まさに「山の頂上で買い、谷の底で売ってしまったかのようなタイミング」だったわけです。
想像を超える損失額「130億円」のインパクト
報道された130億円という損失額は、個人がわずか数カ月~1年程度の短期間で出した投資損失としては、まさに想像を絶する規模です。
この金額を具体的にイメージしてみましょう。例えば、
- 一般的なコンビニエンスストアの建設費は約1〜1.5億円と言われますが、130億円あれば約100店舗近く建てられます。
- 日本の平均的なタワーマンション(総工費数百億円規模)が複数棟建設できる費用に匹敵します。
- プロ野球チームの年間運営費(人件費含む)に匹敵する規模です。
これほどの巨額を失った経験は、通常の投資家には考えられないレベルであり、「ビットコイン=危険」というイメージを孫氏自身に強く植え付けたとしても不思議ではありません。
過去の失敗を乗り越え、ソフトバンクが再挑戦する理由

これほど大きな失敗を経験したにも関わらず、なぜ今、孫氏が率いるソフトバンクグループは再びビットコイン投資に目を向けたのでしょうか?
そこには、市場環境の変化やソフトバンク自身の事情、そして孫氏の哲学の変化が影響していると考えられます。
市場環境の成熟:ビットコインETF誕生と機関投資家の参入
2018年当時と比べ、ビットコイン市場を取り巻く環境は大きく変化しました。最も大きな変化の一つが、米国などでのビットコイン現物ETF(上場投資信託)の承認です。
これにより、従来は購入や保管が難しかった機関投資家や、暗号資産に詳しくない一般の投資家でも、証券口座を通じて比較的簡単にビットコインにアクセスできるようになりました。
これは市場への資金流入を促すだけでなく、市場の透明性や信頼性が向上しつつあるシグナルとも受け取れます。ソフトバンクのような大企業にとって、以前よりも投資を行いやすい環境になったと言えます。
ソフトバンクグループの財務状況と経営戦略
ソフトバンクグループは近年、投資事業において一時的な逆風も経験しましたが、事業ポートフォリオの見直しやアセットの売却などを通じて、財務体質の改善を進めてきました。
経営状況が安定してくれば、新たな成長機会や資産多様化の手段として、リスク資産であるビットコインへの投資も検討の俎上にあがってくる可能性があります。
ビットコインを「失っても耐えられる範囲」でのポートフォリオの一部として組み込むという判断が、以前よりも現実的になったとも考えられます。
孫正義氏の投資哲学の変化?
かつては「一点集中」「リスクを取ってでも大きなリターンを狙う」といったイメージが強かった孫氏の投資スタイルですが、近年の経験を経て、よりリスク分散やポートフォリオ全体のバランスを重視する方向に変化があったのかもしれません。
個人の資産での投機的な投資と、企業として株主に対する責任を負いながら行う投資では、当然リスク管理の考え方が異なります。
今回は、あくまでソフトバンクグループの全体のポートフォリオの中で、ビットコインをどのように位置づけるか、という視点での判断が下された可能性が高いでしょう。
今回のビットコイン投資戦略、3つのポイントを解説
報じられている内容や、大企業の投資戦略として考えられるアプローチから、今回のソフトバンクによるビットコイン投資には、過去の失敗を踏まえたいくつかの重要なポイントがあると考えられます。
少しずつ「分けて買う」戦略でリスク分散
過去の「高値づかみ」という失敗への対策として、最も有効な手段の一つが「時間を分散して少しずつ買う」という戦略です。これは「ドルコスト平均法」とも呼ばれる考え方で、一度に大きな資金を投じるのではなく、例えば毎月決まった額だけを購入するといった手法です。
これにより、価格が高い時には少なく買い、安い時には多く買うことになるため、平均購入単価を平準化し、高値で大量に掴んでしまうリスクを低減できます。価格変動が大きいビットコインのような資産への投資において、特に有効なリスク管理手法と言えます。
安全な「保管」は専門業者に丸投げ
ビットコインなどの暗号資産は、その所有権を示す「秘密鍵」の管理が非常に重要です。この鍵を失ったり、盗まれたりすると、資産を完全に失うリスクがあります。
個人であれば自身でウォレット管理することも多いですが、大企業が巨額の資産を管理するには、専門的な知識と厳重なセキュリティ体制が必要です。
そこで利用されるのが「カストディサービス」です。これは、プロの専門業者が投資家の暗号資産を安全に保管・管理するサービスで、「暗号資産版・金庫サービス」と俗に呼ばれることもあります。
ソフトバンクも、このような専門業者に保管・管理を委託することで、自社で管理するリスクを回避し、セキュリティ面での安全性を確保する狙いがあると考えられます。
ポートフォリオ全体の「一部」として位置づけ
今回のビットコイン投資は、ソフトバンクグループの数ある投資先や事業ポートフォリオの中の「一部」として位置づけられる可能性が高いです。携帯事業、AI関連投資、半導体設計など、ソフトバンクが注力する他の事業や資産と並ぶ、リスク分散のためのアセットクラスの一つとして扱うということです。
単なる投機目的ではなく、全体のリスクとリターンのバランスを考えた上で、ビットコインが持つ価値の保存機能や、将来的なデジタル経済における役割に期待して組み入れるという戦略でしょう。
ソフトバンクが投資するAIやWeb3といった分野とビットコイン・ブロックチェーン技術との連携を見据えた、より長期的な視点での投資である可能性も考えられます。
孫正義氏の挑戦から私たちが学べる「投資の教訓」

孫正義氏のビットコインにおける過去の巨額損失、そして今回の再挑戦という一連の動きは、私たち個人投資家にとっても多くの教訓を含んでいます。
企業や経営者から学ぶ「失敗からの立ち直り」のヒント
まず、孫氏やソフトバンクという企業レベルの動きから学べるのは、「失敗からどう立ち直るか」という普遍的なテーマです。
- 失敗の定量化と教訓化: 130億円という具体的な損失額を認識し、なぜそうなったのか(タイミング、市場理解不足など)を分析し、次にどう活かすかを明確にする。感情に流されず、失敗を次に繋げるデータとして捉える姿勢。
- 市場やタイミングを読む力: 過去の失敗の経験を持ちながらも、現在の市場環境の変化(ETFなど)を冷静に分析し、「今なら」というタイミングで再挑戦する判断力。
- リスクを限定する枠組み: 同じ失敗を繰り返さないために、購入方法の工夫(分散)、管理方法のプロへの委託、全体ポートフォリオ内での比率制限など、リスク管理体制を構築してから臨む重要性。
個人投資家がビットコイン投資で「特に」見るべき5つの視点
孫氏の事例も踏まえ、私たち個人がビットコインなどの暗号資産投資を行う際に、特に注意すべき点を5つ挙げます。
- 価格変動リスクへの深い理解と許容: ビットコインの価格は、時に1日で数十パーセント動くこともあります。このボラティリティ(変動率)の高さを十分に理解し、「なくなっても生活に支障がない」と思える範囲の資金で投資することが鉄則です。
- 税金(損益通算など)の知識: 暗号資産投資で得た利益には税金がかかります。損失の繰り越しや損益通算など、株式などとは異なる部分もあるため、事前に基本的な税制について確認しておく必要があります。
- 安全な保管方法の検討: 自分で秘密鍵を管理する(ウォレット)のか、取引所に預けておくのか、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自身の資産額や知識レベルに合った安全な保管方法を選ぶ必要があります。
- 「少額から」始める重要性: 最初から大きな資金を投じるのではなく、まずは100円や1,000円といった少額から始めて、暗号資産の購入・売却や管理のプロセスに慣れることを強く推奨します。
- 信頼できる情報源の確認: 暗号資産業界には、価格を釣り上げるための不確かな情報や詐欺的な案件も少なくありません。SNSの匿名情報などに惑わされず、金融庁に登録された交換業者、信頼できるニュースメディア、専門家の意見など、根拠に基づいた情報源を確認する習慣をつけましょう。
まとめ:ソフトバンクのビットコイン戦略は成功するか?
孫正義氏の過去の「130億円の教訓」から、今回のソフトバンクグループによるビットコイン投資への再挑戦という流れは、市場参加者の間で大きな関心を集めています。
過去の失敗の背景にあった熱狂とその後の暴落、そして現在の市場環境の変化(ETFの登場など)、ソフトバンク自身の状況を踏まえ、今回の戦略は「少しずつ買う」「プロに管理を任せる」「ポートフォリオの一部とする」といった、過去とは異なる、よりリスク管理を重視したアプローチであることが伺えます。
果たして、この新しい戦略は成功するのでしょうか?それは今後の市場の動向、ソフトバンクの実行力、そしてビットコインという資産クラス自体の将来性に左右されるため、現時点で明確な答えを出すことはできません。
しかし、過去の大きな失敗を糧とし、環境の変化を捉え、戦略を転換して再び挑戦する孫氏やソフトバンクの姿勢は、私たち投資家にとっても多くの示唆を与えてくれます。特に、価格変動リスクの高い資産とどう向き合うか、失敗から何を学び次に活かすか、そして自分自身の投資においていかにリスク管理を徹底するか、といった重要な教訓を、この事例から改めて考える良い機会となるでしょう。